電力系統における中性点接地方式の種類をあげ,その各々について概要を説明する。
また,どのような系統に適用されているかについても説明する。
目次
- 非接地方式
- 直接接地方式
- 高抵抗接地方式
- 消弧リアクトル接地方式
- 抵抗リアクトル並列接地方式
- まとめ
中性点を接地する目的は,
(1)アーク地絡その他による異常電圧の発生を防止すること
(2)電線路の対地電位の上昇を抑え,電線路および機器の絶縁を軽減すること
(3)地絡故障に際し,接地継電器の動作を確実にすること
(4)消弧リアクトル接地方式においては,1線地絡時のアーク地絡を早く消滅させること
この他,中性点の接地は送電系統の安定度,通信線への電磁誘導障害,故障点の損傷,遮断器の遮断容量,避雷器の動作特性などに重大な関係がある。
1.非接地方式
この方式は送電線の電圧が低く,かつ,こう長が短い場合に採用される。
この場合は変圧器の結線をΔ結線とすることができるから,変圧器の故障または点検修理などの作業時にはV結線に直すことができる特徴がある。
電圧が低く,こう長の短い送電線では,たとえ地絡故障が起きてもアーク地絡を継続せず,そのまま送電が可能である。
しかし電圧の高い長距離送電線においては,充電電流が大きくなり,1線地絡故障の際,充電電流により間欠アーク地絡を起こし,異常電圧を発生するおそれがある。
2.直接接地方式
送電線に接続する変圧器の中性点を直接導線で接地する方式で,わが国では一部の例外を除いて,主として187kV以上の超高圧送電系統に採用されている。
この方式のメリットは以下の通り。
(1)1線地絡故障の際,健全相の対地電圧はほとんど上昇せず,異常電圧や遮断器の開閉サージ電圧の値も他の接地方式に比べて低い。
ゆえに,機器の絶縁レベルを低下でき,がいし個数を軽減できるメリットがある。
(2)開閉サージの値を低下できるので,避雷器の責務を軽減することとなり,避雷器の効果を増加できる。
(3)変圧器の中性点端子は常に零電位近くに保たれているので,中性点に近い部分の絶縁を低減する段絶縁を施すことが可能である。
よって,変圧器や付属設備の重量を軽減し,価格を安くできる。
(4)1線地絡故障時の地絡電流は非常に大きくなるため,接地継電器の動作が容易になり,故障の選択遮断が確実になる。
しかし,以下のようなデメリットがある。
(5)地絡故障電流が低力率で,しかも大きい電流であるため,送電系統の過渡安定度が悪くなる。
(6)地絡故障時に通信線に大きな電磁誘導電圧が発生する。
(7)地絡電流が大きいので機器に対する機械的衝撃が大きく,損傷を与えやすい。
(8)地絡故障箇所の損傷が大きく,がいしの破損,電線の溶断などを起こしやすい。
(9)1線地絡電流が大きいので,遮断器の遮断容量が大きなものを採用する必要があり,大電流を遮断する機会が増える。
3.高抵抗接地方式
この方式はわが国において特に発達したもので,超高圧系統以外の154kV系統以下には非常に多く採用されている方式である。
元来,中性点を接地する抵抗値は,低すぎると地絡故障時に通信線への電磁誘導障害が大きくなり,高すぎると継電器の動作が困難になる。
したがって,我が国では従来この両者に重点をおいて抵抗値を決定し,大体100〜1000Ω程度の高抵抗を通じて中性点を接地し,地絡故障時の地絡電流値は150〜300A程度にしている例がもっとも多い。
メリットは以下の通り。
(1)抵抗が高いため地絡電流を抑制し,系統の過渡安定度が高くなる。
(2)接地継電器の適用が可能である。
(3)地絡故障時の通信線に与える誘導障害が抑制できる。
デメリットは以下の通り。
(4)地絡故障時の異常電圧は直接接地方式の場合より大きい。
(5)抵抗が高くなると小勢力接地継電器(小さな電流で動作する継電器)が必要となる。
4.消弧リアクトル接地方式
送電線の対地静電容量と共振させた空隙のある鉄心リアクタンスで中性点を接地し,線路の1線アーク故障をすみやかに消滅させる方式である。
この方式のメリットは以下の通り。
(1)1線地絡故障のほとんどは直ちに消弧して健全回線に復旧する。
(2)たとえ1線地絡故障を消弧できなくても,しばらくは送電を継続できる。
(3)故障点の損傷が軽微で,電線の溶断,がいしの破損などが少ない。
(4)1線地絡故障時の過渡安定度が高い。
(5)通信系への電磁誘導が少ない。
デメリットは以下の通り。
(6)消弧リアクトルの価格が高く,タップの数も多い。
(7)送電系統の増大に伴って消弧リアクトルの容量を増加しなければならない。
(8)取り扱いが複雑で操作を誤ると直列共振電圧のため機器を損傷するおそれがある。
またこの系統では欠相遮断は禁物であり,単相再閉路方式も採用できない。
(9)送電線の断線,その他の原因で異常電圧を発生する可能性がある。
(10)接地電流が少ないため接地継電器の動作が確実性を欠く。
このため抵抗接地を並用することもある。
5.抵抗リアクトル並列接地方式
(1)充電電流の非常に大きな高電圧の長距離送電線や架空線に直接連系される地中ケーブル系統は,通信線に対する誘導障害の防止の点から高抵抗接地が望ましい。
しかし,地絡故障により異常電圧が現れるおそれがあるので,リアクトルを抵抗に並列に接続して充電電流を補償し異常電圧を抑制する。
(2)リアクトルは消弧が目的でないので100%補償の必要はなく,故障電流制限のためのはるかに小さい値で良い。
また,消弧リアクトルのように系統構成の変更に応じてタップを切換える必要もない。
(3)地絡継電器の動作は高抵抗接地と同様,確実である。
(4)抵抗器とリアクトルの両方が必要であるので高価格になる。
6.まとめ
電力系統における中性点接地方式の種類,各々の概要,メリット,デメリットならびに採用されている系統について説明しました。
具体的には,我が国で採用されている中性点接地方式には,直接接地方式,高抵抗接地方式,消弧リアクトル接地方式,抵抗リアクトル並列接地方式があり,アーク地絡その他による異常電圧の発生を防止,電線路および機器の絶縁レベル軽減によるコスト面,地絡故障に対する接地継電器の動作を確実性などを考慮して決められている。
また,中性点の接地方式は,送電系統の安定度,通信線への電磁誘導障害,故障点の損傷,遮断器の遮断容量,避雷器の動作特性などにも影響があり,総合的に最適な方式が選定されている。
それでは,人間万事塞翁が馬。人生,何事も楽しみましょう!
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