電力系統の事故波及防止システムの解説[施設管理32]

我が国では電力系統の部分的事故が全系統に拡大・波及し,系統の過渡,中間領域安定度が損なわれるのを防止するため,事故波及防止システムが導入されている。

このシステムの基本的な機能,方式と特徴,信頼性向上策について説明する。

 

目次

  1. 超速応励磁制御方式および電力系統安定化装置(PSS)の導入
  2. 制動抵抗(SDR)の設置
  3. タービン高速バルブ制御方式(EVA)の活用
  4. 高速度遮断器,高速度再閉路の採用
  5. まとめ

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電力系統において短絡および地絡などの事故が発生すると,系統電圧が急激に変化して電力の動揺を生じる。

 

これによって,電力系統の安定度が損なわれることがある。

 

これを防止するための電力系統の過渡,中間領域の安定度向上対策として次のようなものがあげられる。

 

1.超速応励磁制御方式および電力系統安定化装置(PSS)の導入

 

(1)機能・方式

 

速応励磁制御方式は励磁制御装置にサイリスタを用いた界磁制御で,系統電圧が急激に変化した場合,この電圧が一定になるように励磁電流を調節するものである。

 

電力系統安定化装置(PSS)は,発電機の有効電力の変動(ΔV),周波数変動(Δf)を入力して,この信号を位相補償した後,自動電圧調整装置(AVR)を介して発電機励磁系を制御して,電力動揺を抑制するものである。

 

(2)特徴・信頼性の向上

 

速応励磁制御方式では,過渡領域の安定度の向上を図ることができるが,それに引き続き生じる第2波以降の動揺を抑えることはできない。

 

この第2波以降の動揺(中間領域安定度)を抑える装置がPSSである。

 

2.制動抵抗(SDR)の設置

 

(1)機能・方式

 

電力系統の事故で,遮断器操作(再閉路等)を行った場合,発電機出力が急激に減少するため,発電機が加速し脱調する恐れがある。

 

これを防止するため,一時的に発電機出力端子に大容量の抵抗(SDR)を並列に接続し,発電機の加速エネルギーを吸収させることによって過渡安定度を向上させるものである。

 

(2)特徴・信頼性の向上

 

構成が簡単であるが,制動抵抗挿入時期および開放時間などのタイミングが難しい。

 

このタイミングが良ければ,発電機を減速させることができ,過渡安定度向上対策には効果的である。

 

しかしタイミングが悪いと,かえって安定度を損なうことにもなる。

 

3.タービン高速バルブ制御方式(EVA)の活用

 

(1)機能・方式

 

電力系統での事故による発電機の急激な出力低下に応じて,タービンへの蒸気入力を高速で減少させ発電機の加速を抑えるものである(中低圧タービンの入口のインターセプトバルブで,再熱蒸気を減少させ,発電機の加速を抑制する)。

 

これにより,入力と出力のアンバランスをなくすことができ,過渡安定度の向上を図ることができる。

 

(2)特徴・信頼性の向上

 

EVAは応答が速いため,事故第1波に対して有効ではあるが,第2波以降においてはあまり効果が期待できない。

 

したがって第2波以降はPSS等を併用する必要がある。

 

4.高速度遮断器,高速度再閉路の採用

 

(1)機能・方式

 

事故をできるだけ早く切り離すことによって過渡安定度の向上を図るもので,高速度遮断器,高速度再閉路を採用する方式である。

 

(2)特徴・信頼性の向上

 

事故の除去および電力系統の切替を高速で行うと,過渡安定度の向上を図ることができる。

 

高速度再閉路には三相再閉路と多相再閉路があり,多相再閉路のほうが過渡安定度は高い。

 

5.まとめ

 ☆これまでになかった新電験論説攻略法の紹介☆

 

電力系統の部分的事故が全系統に拡大・波及し,系統の過渡,中間領域安定度が損なわるのを防止するため,事故波及防止システムが導入されており,そのシステムの基本的な機能,方式と特徴,信頼性向上策について説明しました。

 

具体的には,超速応励磁制御方式,電力系統安定化装置(PSS),制動抵抗(SDR),タービン高速バルブ制御方式(EVA),高速度遮断器,高速度再閉路の概要について解説しました。

 

それでは,人間万事塞翁が馬。人生,何事も楽しみましょう!